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2012年9月10日月曜日

【映画評】 BROKEBACK MOUNTAIN

amazonより


 1960年代、アメリカ西部ワイオミング。ふたりのカーボーイ、イニスとジャックは季節労働者として雇われた先の牧場で出会った。過酷な労働の中で次第に友情を深めていくが、ある夜一線を越えてしまう。一度は別れたふたりだが、その数年後たがいに妻子を持つ身で再会し、逢瀬を重ねることになる。ホモフォビアが根強い土地で、思うように会えないもどかしさと孤独がつのるなか、喧嘩をくりかえし、苦悩し、それでも別れられない何かを感じて。そこへ、イニスのもとに一通の手紙が届く…。
 ぬくもりがありながらどこか乾いたような音楽、人間を飲みこむような自然描写が、観る者の胸に孤独をかきたてる。印象的なのは、イニスを演じたヒース・レジャーの存在感だ。イニスの、無骨な中にひそんだ繊細さを静かに演じている。彼はこの映画が公開された3年後に28歳の若さで亡くなったのだが、いまとなってはその事実がいっそう涙をさそう。
 決してゲイの権利を声高に主張するような映画ではない。台詞はそぎ落とされ、ただただ静かに、叶わぬ恋に苦しみつづけるふたりの姿を描いている。しかしだからこそ、彼らの想いが胸に染みてくる。そしてもしかしたら思うだろう、恋をすること、深く愛することの苦しみをわたしもどこかで味わったことがあるかもしれない――と。しずかに、でもふかく、感情を心の底からすくいあげられるような、そんな映画なのだ。

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