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『風の歌を聴け』は1979年に発行された村上春樹のデビュー作である。当時ジャズバーを経営していた村上春樹はこの作品で群像新人文学賞を受賞し、作家としての道を開いた。後に、彼は「風の歌を聴け」の続編を3冊書き、これらは「羊4部作」と呼ばれ、すべてトップセラーとなった。
『風の歌を聴け』の登場人物は皆少し風変わりで、皆孤独だ。父親の靴を磨くことが日課となっている主人公の大学生の「僕」、「僕」の友達で金持ちでありながらも金持ちを毛嫌いする「鼠」、「僕」と「鼠」の行きつけのジェイズバーのオーナーで中国人の「ジェイ」、ジェイズバーのトイレの床に寝てた指が一本ない家族崩壊中の女の子、時折登場するラジオパーソナリティー。しかし、このような面白い登場人物がいるにもかかわらず、実際のところこの物語はストーリー性がほとんどない。大学生の「僕」が里帰りしたときの出来事が淡々と書かれている。出来事と言ってもたいしたことは起こらない。「僕」と「鼠」の1970年の夏は、ジェイズバーで「25メートルプール一杯分のビール」を飲みながら、生きている間に失ったものや自ら捨てたものについて考えながら、あっという間に過ぎ去る。その単純すぎるあらすじの中で村上春樹はどこまでもノスタルジックに、切なく皮肉な物語を書く。
この小説は村上春樹の他の作品にはないユーモアも含まれている。彼はこの小説のまえがきとあとがきには「僕」が尊敬する作家のデレク・ハートフィールドのことを書いている。ハートフィールドをヘミングウェイなどの大物作家と比較し、ハートフィールドの人生と作品の不毛さについて語っている。しかしデレク・ハートフィールドという人物は実在しない。『風の歌を聴け』が出版された当初、このデレク・ハートフィールドの本を自分も読んでみたいと言い、図書館に行ってハートフィールドの本を探す読者が多かったという。そこまで細かく実在しない作家について書いてあるのだ。私自信、初めてこの小説を読んだ中学生のとき、デレク・ハートフィールドをamazonで調べ、実在しないと知り驚いた経験がある。このようなユーモアもこの小説の大きな魅力である。
後ひと月もすればICUも夏休みに入る。まさに『風の歌を聴け』の季節だ。この機会に村上ワールドに足を踏み入れてはいかがだろうか?
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